情報システム調達:モレなくダブりなくシステムの委託契約を行う工夫を(1)

今回からは、新たなトピックスとして「情報システム調達」について考えていくことにします。
架空の自治体、自治市のお話です。(この設定があることを忘れてしまいそう)
以前、自治市における情報システム調達にて、契約の根拠となるシステム設計書のクオリティに関する話題を採りあげました。
クオリティを継続的に向上するために、過去の事例を俯瞰した帰納的アプローチを採用するべき、というお話だったんですが、覚えてらっしゃいますか?
このアプローチは、いわゆるシステムの「新規開発」や「大規模改修」の場合に有効です。というか、継続的な取り組みを3年程度繰り返せば、自ら考える文化が根付くでしょう。
一方、すでに導入済みのシステムにおける、運用委託、保守委託については、対象となるシステムが変わらない限り、毎年同じような委託内容での契約を締結することとなります。
自治市の場合には、比較的パッケージソフトの導入率が低く、フルスクラッチのシステムが多いのですが、その場合でも、システムを構成しているソフトウェアの著作権はそのシステムの納品と同時に市に移転する旨の契約となっていることが一般的です。
自治体を相手にしているベンダーたちの悪しき慣習ですが、当初の開発費を安く設定し、運用委託、保守委託でその赤字分を回収する、というビジネスモデルがこれまで繰り返されてきました。(最近では1円落札、とかは行われなくなりましたが、行き過ぎるとその手の契約も出てくるわけです。モラルハザードですね)
こういうビジネスモデルを排除するためにも、ベンダーロックインの原因となりえる権利関係の整理というのが必要なのです。
最近では、こういう取り組みがベストプラクティスになっていますね。
自治市の場合は、この取り組みのおかげでシステムの運用委託、保守委託は随意契約とはならずに、毎年競争入札を行って業者選定をしています。というのは理屈上の話。
残念ながら、いくら著作権が市に帰属していると言っても、運用委託、保守委託の多くは当初にシステム開発を受託したベンダーが担うという状況です。大変残念です。
しかも、競争入札を行っても応札するベンダーが1社のみ、というケースも多いのです。
自治市の議会でも、このことについて時々ツッコミが入ります。
「一部のベンダーに契約が偏っているのではないか。そうだとすれば、癒着を思わせる形態ではないのか」
私が赴任するまでの自治市では、この問題についての決定的な解決策を見出せず、半ばあきらめムードがあったと聞いています。
特に基幹系のシステム(財務会計や庶務事務システムなど)は安定稼動を強く求められているものですから、なんとなくスッキリしない契約であっても、同じベンダーとの付き合いを継続することについて、「やむを得ない」と思考停止していたわけです。
議会からのツッコミの意図は2つあって、

  1. 随意契約は論外(随意契約に関する件は後で書きます)として、入札などで競争性を働かせているのにも関わらず、契約先が偏るのは納得がいかない。
  2. 自分たちの支持者から、自治市の情報システム関連の仕事がなかなか受注できない、と言う話を耳にするのだが、どうなっているのだ。

という感じでしょう。あくまでも推測ですけどね。
ちなみに、2.については議員さん側がいろんな事情を汲み取った上での意見だと思いますので、行政機関として答える筋ではありませんが、1.については、私なりに原因は理解しており、解決しなければならないと考えています。
まぁちょっと考えてみればわかると思いますが、1社入札となることが、ひとまずの問題なのです。私はこの状態を揶揄して「なんちゃって入札」と呼んでいます。
この記事をお読みになってる方の中で、行政機関の仕事の受発注をした経験のある方が、どの程度いらっしゃるのか不明ですが、競争入札は入札会場にて各社が金額の書いた紙を入札箱の中に入れてから、入札額の比較を行うのです。
あなたが応札するベンダーだとして、入札会場に自分しかいなかったら、どうしますか?
合理的に考えれば、そのシステム構築の予算額に限りなく近いところ(あるいは同額)の金額を入札額として提示するでしょう。
#細かいことを言えば、入札の予定価格との関係や、不落になった場合の随意契約交渉までのシナリオが考えられるのですが、ここでは略します。
競争相手が会場にいないわけですから、これでめでたく落札。もしかしたら、ずいぶんと水増しした価格で受注しているかもしれません。
その分、税金が意図されない形で使われてしまうのです。行政システムを研究する人間として(私はインチキ行政職員の顔も持っていましたが)これは許せません。
また、私は「イノベーション(技術革新)は常に競争の中から生まれるもの」だと考えています。競争があるから工夫をし、その工夫の積み重ねが、ベンダーや従業員を成長させるのだと信じています。
自治市は産業振興に力を入れていますが、裏返すと現在はロクな産業が育っていないとも言えます。地域のITベンダーが競争によって力をつけ、地元以外でも戦えるようにすることも考えなければならないのです。
そのため、少なくとも2社以上の応札者が入札会場に現れる状況を維持しなければなりません。
ということで、この話題は次回に続きます。