地域情報化:低迷続きの電子申請分野に潜む本当の課題は何か(1)

なぜ私が行政機関のCIO補佐官という仕事に関心を持ったのかというと、もともと研究の対象として省庁や自治体の電子申請システムを扱っていたからなのです。
研究するからには、一度はサービスの送り手であることを経験しなければならないと思ったからなのですね。
もちろん、行政書士としてサービスの利用側の視点での経験は十分にありました。今でも利用者視点でまじめに研究しているのは、私だけだと自負しています。
私がこれまで地方公共団体で関与した業務も、電子申請システムの導入に関するコンサルティングが主だったものでした。
ただ残念なことに、地方公共団体の電子申請システムの初期構想から関与することはできず、プロジェクトとしては若干行き詰った段階で参加を求められることが多かったのです。
ここは架空の話ではなく、実際の話。
私は高知県のCIO補佐官として3年間高知に赴任していました。
実は高知県への赴任が決まったときに、一番楽しみにしていたのは、電子申請システムへの関与が主体的に行えるということでした。というのは、高知県は過去に電子申請システムを導入し運用していたものの、費用対効果が得られないとの理由で、運用を休止していたのです。
実はこれはなかなかの大英断です。当時の高知県知事は橋本大二郎さんだったのですが、かなりの改革派だったようで、他の行政機関がなかなか現実を直視しない中、知事の決断で運用休止に踏み切ったのです。
もちろん私が赴任したのは橋本氏が知事の職を辞した後です。ただ、こういう思い切りの良さは高知県庁のDNAとして受け継がれているだろうと信じることにし、立て直すのならば、こういう行政機関の方が期待できる。と考えたのですが、実際にはかなりその手前の部分で苦戦しました。
なんと言っても、国がe-Japan計画で当初掲げていた電子申請システム(電子証明書を用いた電子申請、届出を行うことができるシステム)は、省庁、地方公共団体とも利用率が低迷しておりました。
揶揄に聞こえるかもしれませんが、国は掲げた目標達成(利用率50%)に近づけるべく、電子申請システムの意味するところを後付けで拡大解釈し、本人確認を伴わない簡易な届出、申込までを含めて、ようやく帳尻があったという状態でした。
そんな状況なので、一度休止した電子申請システムに再度チャレンジするというのは、「あの時期のことは思い出したくない」とトラウマを抱える古参の情報政策関連部門の職員を鼓舞しなければならず、とても困難なことなのです。結局、残念ながら私の在任中はそのチャンスが到来しませんでした。
さて、もしも電子申請システムへのリベンジを果たすのであれば、同じことを繰り返すというのでは芸がありません。
利用率(というか絶対的な利用件数)が向上しない要因を冷静に分析し、先入観にとらわれることなく改善のアイディアを挙げていくことが必要です。
学術的な研究の場でも、電子申請の利用率に関するテーマは細々と続いています。(ただ昔に比べて注目度が低いのと、国のお金も付かなくなっているので、ジリ貧ですが)
そこでは電子申請の利用件数が向上しない原因として4つの事項を挙げています。

  1. 電子証明書(あるいは住基カード+公的個人証明書)の普及低迷
  2. 電子申請における添付書類の取り扱いに決定的な解決策なし
  3. 手数料支払い(特に少額)の取り扱いに決定的な解決策なし
  4. 電子申請を選択する際のインセンティブ設計が下手

ちなみに1から4まで並列ではなく、1から3までが以前から語られてきたテーマであり、4のインセンティブは欠点を補うためのカンフル剤としての位置づけになっているようです。
(インセンティブという理屈が語られ始めたのは、行動経済学をかじった学者さんの仕業だと思います。1から3までのようなそもそもの問題を解決できないので、4に逃げたと読めなくもありません)
一方で、1のテーマを何とか解決しようと、総務省や内閣官房はまだまだ頑張っています。その果実がマイナンバー制度に結びつくというのは、起こるべきして起こる出来事だったのでしょうね。